2015年度 修士学位論文要旨「電子励起二次電子収率の精密測定に関する研究」
摂南大学大学院工学研究科 生産開発工学専攻表面物性工学研究室 植垣 悠馬
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本研究で重要である二次電子とは,固体表面に電子(一次電子)を照射した際に固体表面から放出される電子をいう。 二次電子放出現象は,プラズマディスプレイなどの放電を利用したデバイスや,二次電子増倍管など の荷電粒子の検出器などに応用されている。また走査電子顕微鏡やオージェ電子分光法など電子ビームを 用いた表面観察・分析法に広く活用されている。二次電子収率(一次電子量に対する二次電子量の比率)の データは,上記のような装置の設計や観察・分析結果の解析の基礎であり重要である。
二次電子の研究は古く,20世紀の初めに電子の発見とほぼ同時代に発見されている。しかし,これまで 多くの人々により研究されてきたがデータのばらつきが極めて大きい。これは二次電子放出現象が表面の 状態(汚染・形状など)に対し非常に敏感に左右されることや二次電子の捕集効率を上げることが容易では ないこと(原理的にすべての二次電子を捕集するのは不可能)による。超高真空技術が確立された1960年代 以降,清浄表面の計測が比較的容易となり,ばらつきは小さくなってきたが,それでも20%程度の精度に 止まっている。そのような事情から二次電子収率のデータが定量的な物性計測に応用された例はない。
このような状況下で本研究では電子励起二次電子収率の精密測定法の開発と,測定された二次電子収率 の定量的物性計測への応用を目的とした。まず,市販の超高真空走査型オージェ電子顕微鏡をベースマシーン として一次電子のエネルギーを 100eV〜10keVまで連続可変できるように加速電圧電源と電子レンズ電源 の改造を実施した。これを用いて名工大(当時)後藤教授と共同開発した捕集効率98%の貫通型ファラデーカップ を用いた二次電子収率の一次電子エネルギー依存性に関する実験を実施した。
また,固体内電子散乱のモンテカルロシミュレーションを用いて二次電子収率の一次電子エネルギー依存性の 実験結果から二次電子パラメータ(二次電子生成係数 κ,二次電子吸収係数 α)を求め,この手法を 多くの元素に適用することにより二次電子パラメータのデータベースを作成した。さらに二次電子データベースの 定量的物性計測への応用として,試料の密度(あるいは多孔質試料の空隙率)の推定や,二層構造試料の 被覆膜厚の推定の可能性について検討した。また,オージェ深さ方向分析における界面付近のスパッタ深さ スケール校正への応用を試みた。
結果として,測定実験から単層試料では表面の形状,状態で収率が変化することが確認された。また 1keV以下 の低加速電圧時の電流値の経時変化は,測定領域付近でどこか帯電している可能性がある。清浄かつ平坦 な試料表面を用意し,帯電を除けば精密測定につながるであろう。シミュレーションでは収量係数など 各パラメータから二層構造の試料の膜厚を推定できる可能性がわかった。C/Cu二層構造試料では 二層構造試料の実験データのσから膜厚を推定できる可能性と界面付近の深さスケール校正の可能性を見いだした。関連論文・発表(下線は発表者)
「モンテカルロシミュレーションを用いた二次電子収率によるRuO2/Ruの酸化膜厚推定の試み」
植垣悠馬,井上雅彦
2014年度 実用表面分析講演会 PSA-14(2014,10,27-28,御殿場高原 時之栖)ポスター講演
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