2007年度 修士学位論文要旨

「C60 クラスタイオン銃の開発」

摂南大学大学院工学研究科 電気電子工学専攻

表面物性工学研究室 入江 優

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 イオンビームスパッタエッチングを用いた高分解能3次元表 面分析においてイオンビームの微細化とソフトスパッタリング の両立を可能にするという点でクラスタイオンビームの利用が 有望視されている。従来, スパッタ深さ方向分析でのエッチン グには希ガスイオンが使用されてきたが, 試料に希ガスイオ ンビームを照射するとアトミックミキシング(原子混合)により試 料に与える損傷が激しく, 正しい分子結合状態を解析するこ とは極めて困難であった。一方, 極浅イオン注入や機能薄膜 形成のための新しい手法として開発が進められてきたクラスタ イオンビーム技術はソフトスパッタエッチングに利用できるこ とが以前より指摘されてきた。このクラスタイオンビームを物 質表面に照射するとイオンの運動エネルギーがクラスタの構 成原子に分配され,結果としてラテラルスパッタリングが引き 起こされて,高効率のスパッタリングと超平坦面形成効果が活 用でき, 金属・半導体材料さらにダイヤモンドなどの難加工材 料の高速, 低損傷,微細加工に応用されはじめている。
 本研究では, C60試料を昇華させることによってC60巨大 分子,すなわち炭素原子が60個集まったサイズの揃ったクラ スタが容易に得られることに着目し, この現象を利用した表面 分析の現場で利用可能な小型のC60クラスタイオン銃を新た に設計・開発することを目的とした。このため, 電子衝撃型の クラスタイオン源,回転電場型の質量フィルタ(R otating F ield M ass F ilter:RFMF), およびそれらを動作させる制 御コントローラを新たに設計・製作し,これらを組み合わせてC 60クラスタイオン銃として特性評価を行い, システムとしての 最適動作条件を決定することを目指した。
 研究は実験に用いる超高真空装置を整備し,立ち上げること から始まり, 本体組立て,制御回路の製作,装置の特性評価を 順に行っていった。イオン源に関してはC60を安定に昇華させ るためのC60リザーバ温度制御回路を設計・製作し,必要な仕 様を満たしていることを確認した。回転電場型質量フィルタ (RFMF)に関しては加速電圧に対する通過周波数の数値計 算を行い,Xe+イオンビームを用いた実験結果と比較・検討す ることにより x-y ディフレクタ,コンデンサレンズ,質量フィルタ レンズの各最適パラメータを決定した。この実験結果を基にし てC60+クラスタイオンビームを分離するための条件を推定す ることが可能になった。以上の準備の後,まずイオン源部のみ を用いてC60昇華実験を行った。リザーバ温度を変化させな がら全イオン電流を測定したところ,350°C付近から昇華が始 まり400°C以上で急激にイオン電流が増加することが確認さ れた。ここで発生したイオンビームを回転電場型質量フィルタ に通し,純粋なC60+クラスタイオンビームを生成する実験は 現在進行中である。

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関連論文・発表(下線は発表者)

  • 「Development of C60 Cluster Ion Gun with Rotating Field Mass Filter」
      入江 優,有馬智幸,井上雅彦
      第4回 実用表面分析国際会議 PSA-07(2007,11,25-28,金沢市, 石川県立音楽堂)ポスター講演 (1分間ショートプレゼンの様子
  • 「クラスタイオンビームのための回転電場型質量フィルタの開発」
      入江 優,小嶋佑治,井上雅彦,志水隆一
      2006年度 実用表面分析講演会(2006,10,18-19,栃木県総合文化センター)ポスター講演

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