「ベクトル 内積・外積 その物理学的イメージ」
2004.7.24 摂南大学 工学部 電気電子工学科 井上雅彦

工学部 教育センターSEC Video Library > One-point アドバイス(物理)
解説ビデオ

物理学で扱う物理量には,大きさだけを持つスカラーと,大きさの他に方向をもつベクトルがある。 これらの物理量の積が別の物理量となる場合について考えよう。
まず,スカラー同士の積だが,どちらももともと方向を持っていないので これはあきらかにスカラーとなる。 次にスカラーとベクトルの積はベクトルとなる。方向はもとのベクトルと同じで,その大きさがスカラー倍される。 最後にベクトル同士の積であるが,この積の結果はスカラーとベクトルの二つのケースが考えられる。これらはそれぞれ内積(スカラー積)および 外積(ベクトル積)と呼ばれる。

内積(スカラー積)

図のように床の上にある物体に力F〔N〕を加え s〔m〕移動させたときの仕事 W〔J〕について考えてみよう。まず s の方向を基本として,力 Fs に垂直な成分 Fs に平行な成分 F// に分けて考えると,この場合物体の移動に関係したのは F// だけなのでなされた仕事は
〔J〕
となる。Wには方向性はなく(移動方向が東だろうが西だろうが疲れ方は同じ)スカラー量となる。

逆に F の方向を基本として,移動距離のベクトル sF に垂直な成分 s と水平な成分 s// にわけて考えると, 加えられた力の方向に移動した距離は s// なのでなされた仕事は

〔J〕
となり先ほどの結果と一致する。これらはまとめてベクトルの内積で表現することができる。
〔J〕
つまり,物理学で内積を使用する場合は,二つのベクトル量の同一方向成分(平行成分)の積を求めていることになる。 おなじ方向の成分の積ということで,演算の結果,方向に関する情報は無くなってしまう。

外積(ベクトル積)

外積の話題に入る前に回転運動(回転力)の表現について整理しておこう。回転には回転軸があるので,この軸の方向で回転の方向性を表現する。 なお,ひとつの軸には二つの方向が考えられるが,回転に対して右ねじの進む向きと定義する。また,回転の度合い(運動量とか,力とか) をこのベクトルの大きさで表すことにすると,回転は図の p ベクトルのように一つのベクトル量として表現できる。

さて,紙面上に O 点と P 点があり,紙面に平行な力 F〔N〕を P 点に加えた場合の O 点のまわりの 力のモーメント M〔Nm〕について考えてみる。まず,P 点の位置ベクトル r の 方向を基準にして,力 Fr に平行な成分 F// と垂直な成分 Fに分けて考える。 明らかに F// は回転に寄与しない。 従って力のモーメントの大きさは,

〔Nm〕
またベクトル M の方向は回転の右ねじ進行方向なので,紙面に垂直で上向きとなる。

逆に力 F の方向を基準として,位置ベクトル rF に 平行な成分 r// と垂直な成分 r に分けると, 明らかに r// は回転に寄与しない。従って力のモーメントの大きさは,

〔Nm〕
となり,先ほどの結果と一致する。またベクトル M の方向は回転の右ねじ進行方向なので,紙面に垂直で上向きとなる。 これらは方向も含めてまとめてベクトルの外積で表現できる。
〔Nm〕
つまり物理学で外積を使用する場合は,二つのベクトル量の直交する成分(垂直成分)の積を求めていることになる。演算結果は回転に対応するためやはりベクトル量となり, その方向は回転の右ねじ進行方向となる。外積では演算順序を変えると符号が逆になるので注意を要する。 これは回転方向が逆向きになることに対応している。


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